今回ご紹介する写真は、ガダルカナル島マタニカウ川沿いの道端で商売する、ソロモン人家族である。一家がテーブルの上にならべて売っているのがベーテルナッツ、日本語では檳榔子(ビンロウジ)である。太平洋諸島で広く愛好されている嗜好品のベーテルナッツ噛みは南の島の風物詩とも言えようが、実態は余り美しいものではない。このウェブサイトを作るにあたってしばしば引用する「オセアニアを知る事典」(平凡社刊)はこれを次のように解説している。「ヤシ科のアレカヤシ、通称ビンロウジュAreca catechuの種子(ベテル・ナット)の核と石灰を、コショウ科のつる性植物キンマPiper betleの葉で包み、これを口の中で噛む習慣をベテル・チューイングと呼ぶ。噛んでいると口中が朱赤色になり、これを唾液とともに吐く。ベテル・ナットはアルカロイドを含み、興奮性の麻酔作用があり、紀元前よりインド、東南アジア、オセアニアの各地で咬?料masticatoryとして広く栽培・利用されてきた。」
要は椰子の実の非常に小さいようなものを葉っぱに包んで、石灰をまぶして噛むのだが、すると緑の実が石灰と化学反応を起こすのか、口の中が真っ赤な汁でいっぱいになる。この汁の味、ひたすらに苦い。ビンロウを噛むものはこの赤い唾液を辺り構わず吐き散らすので、大洋州諸国でも公共の場ではビンロウ禁止としていることもある。また噛んでいるうちに段々と口が痺れてくる。わたしはこの段階まで何度か挑戦したのだが、好きになるには到らなかった。この苦味が苦にならなくなったら癖になるのかもしれない。
このビンロウだが、日本との関わりは驚くほど古く、「奈良時代の756年(天平勝宝8)ころすでに輸入された記録がある」(前掲書)。用途は薬用、染料とのこと。それから下って千二百年、現代日本とビンロウとの接点について、面白い話を見つけた。ヤップ島の「酋長」がイベントに呼ばれて日本に来て、愛用のビンロウを沢山持っては来たのだが、一緒に噛む「カブイの葉」(キンマと同じものであろう)が保存が利かないため困った。何とかしてよと某人類学者に泣きついたところ、この学者が新宿御苑で良く似た種類の葉っぱを見つけ、閉苑間際になるのを狙って4、5回にわたって「葉っぱ泥棒」に及び、ことなきを得たという。小林泉著「ミクロネシアの小さな国々」(中公新書)に紹介されていたほほ笑ましいエピソードである。
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